1967年
ブライアン・ウィルソンがビーチ・ボーイズで「ペット・サウンド」というコンセプトアルバムを出しまして、ビートルズも負けずと出したのがこのアルバムです。アルバム全体のトータルコーディネートは断然こちらがウワテです。音楽だけでなく他の芸術やファッションにまで影響を与えました。
ピーマン軍曹の心寂しいバンドという架空のキャラクターを設定し、それを軸にした作品です。一貫性は後のプログレッシブ・ロックほどありません。が、当時としてはコンセプトアルバムというものがメジャーではなかったので、中途半端でも先駆者としてかなり意義があったはずです。
タイトル曲「サージェント・ペパーズ〜」はバンド紹介です。流石はビートルズです。かっこいいギンギンロックとラッパによるファンファーレとの融合です。
そのままメドレーで「ビリー・シアーズ」という架空の歌手が紹介されて、リンゴが甘く歌う「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ」が続きます。リンゴが唄うに相応しい長閑な曲です。後にジョー・コッカーのロックなカバーを聞いたときは衝撃でした。
「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」はビートルズでも突出した名曲です。幻想的な歌詞とアレンジでLSDの歌かと問題になりました。始まりは柔らかい3拍子、賑やかでサイケなブリッジ、サビで一転してパワフルな4拍子になります。サビのインパクトは絶大です。不定調でありながら自然に流れるフレーズにシンセサイザー、インド楽器のタンプーラなどを駆使したサウンドはサイケデリックロックの真髄です。
「ゲッティング・ベター」でもタンプーラは大活躍です。ビートルズはインド楽器の幻想的な音に取り憑かれたのでしょう。
「フィクシング・ア・ホール」は奥が深いんです。ポールには珍しく哲学的な言い回しや比喩を使った歌詞です。 心の穴を埋める物が何なのか気になるところです。むしろ、何らかの中毒から回復することを歌っているようにも聴こえますね。
「シーズ・リーヴィング・ホーム」では、ビートルズは唄うだけで演奏していません。オーケストラ任せです。コーラスも含めてキレイな曲ですが、この曲がここにある意味が分かりませんね。
サーカスをテーマにした「ビーイング・フォー・ベネフィット・オヴ・ミスター・カイト」は「ルーシー〜」にも増してサイケデリックな仕上がりです。当時としては最新導入のモーグ・シンセサイザーがふんだんに取り入れられ、煌びやかでありながら切ないサーカスの雰囲気が演出されています。手回しオルガンのイメージだそうです。最近のポールのコンサートでの定番ですね。このアルバムに相応しいA面最後の曲です。
さて、次が問題です。取って付けたようにインドです。B面の始めで早速「ピーマン軍曹」はぶち壊しです。曲自体の評価はできますが、これは「インド音楽にはまったジョージのために無理やり作った枠」です。アルバム全体としてサイケデリックな仕上がりなので、仕方無しに入れたのでしょうか?
さらに傷口に塩を塗るのがポールの「ホエン・アイム・シックスティ・フォー」です。前曲のサイケデリックな感じを全否定して鼻で笑うかのようなボードビルです。聴く人までも馬鹿にしているようです。曲はよくできているんですけどね。
「ラブリー・リタ」で元に戻ります。始まりのねちっこいコーラスと対象的な急かすようなパッセージが秀逸です。
「グッド・モーニング・グッド・モーニング」はさらに攻めてきます。変拍子も自在で、聴く者に有無を言わせないかのように隙なくゴリ押しで攻めてきます。
そしてピーマン軍曹の最後の曲です。タイトル曲の再演で締めくくりということです。始まりよりも軽快に、歌詞を変えて、冗談めかして演奏されます。と、思いきやメドレーでそのままアンコール曲「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」に突入するんです。曲調の関連性皆無です。馬鹿ですね〜。全体的にジョンで中盤がポールが書いたというツギハギ曲ですが、アレンジも相まってかインパクトは絶大で、子供に聴かせてはいけません。目ん玉ギラギラ、胸バクバクで眠れなくなります。
「ア・デイ〜」はピアノのジャーン!で終わります。ペダルは踏みっぱなしの自然減衰を待つばかりです。そこで聴者は油断します。「ああ、おわった。おかしなアルバムだった〜」と余韻に浸り始めるや、レコードプレイヤが壊れます。「他にやり方はなかった。あっはっはっは。他にやり方はなかった。あっはっはっは。他に〜」の延々リピートです。延々です。これはレコードの真ん中のレーベルの周りの溝にまで音を入れているんです。その溝は円なので止めるまで終わりません。「サージェント・ペパー・インナー・グルーブ(内溝)」と後々命名されました。
このようにビートルズはアルバムの最後で聴者を馬鹿にして台無しにします。